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韓国の熾烈な競争社会 [よのなか]

今、韓国と言えば、
ソニーやパナソニックを完全に上回った感のあるサムスン、
ブランド力がうなぎ上りの現代自動車、
日本だけでなく世界を席巻するK-POP
など、勢いがあって強烈な光を放っています。

しかし、光が強烈であればあるほど、その背後にできる影は色濃くなっているはずです。
韓国勢の躍進を耳にすればする程、その影の部分も知りたいと思うようになっていました。

共同通信社でソウル特派員であった著者が書いた『オーディション社会 韓国』では、その一端を垣間見ることができます。

オーディション社会 韓国 (新潮新書)

オーディション社会 韓国 (新潮新書)

  • 作者: 佐藤 大介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/06/15
  • メディア: 単行本



韓国で人々は様々な競争にさらされていて、韓国躍進の原動力ともなっています。

その中で、多くの人たちが幼少期から味わうものが「教育」です。
「いい大学」に入れば、「いい会社」に入れて、「いい人生」が送れるという「学歴信仰」は日本でも同じですが、韓国人の「学歴信仰」の背景にあるのが1997年の「IMF危機」です。
通貨ウォンが暴落し、国際通貨基金(IMF)の管理下に入ることを余儀なくされたのです。

中小企業を中心に倒産が相次ぎ、失業者や自殺者が増加。
そうした悪夢を繰り返さないために、韓国は競争力増加の路線を歩み出します。

豊富な知識と強力なリーダーシップを持った一部のエリートたちが、国民生活を引き上げる原動力となるとして、トップエリートを生み出すだめの競争を容認したのです。
「一人の人材が、数十万人を救うことができる」のです。

IMF危機で苦い経験をした親達も子供に同じ思いをさせまいと、子供の教育の為に家計の大半を投入し、子供達を過熱した受験競争に追い立てます。
内需が限られている韓国では、就職や昇進には英語能力が欠かせない為、母子に英語留学をさせ父親だけが韓国内に残り仕送り生活を続ける「キロギアッパ」と呼ばれる家庭も増えています。

教育熱は少子化ももたらしました。
2009年の韓国の合計特殊出生率は、日本の1.37よりも低い、1.15でOECD加盟国の中で最低水準です。
日本と同じように、そして日本以上に、教育費負担が養育の重しとなっているのです。


IMF危機は職場でも大きな変化をもたらしました。

正規社員はそれまでの年功序列が改められ、容赦なく首を切られて、非正規社員に置き換わりました。
一方持たざる若者は、必死に受験競争をして入った大学でも、就職活動に有利になるようにスペック集めに奔走し、それでも正社員に採用されない人が増えています。
年功序列制度が崩れ、さらに「労働力の流動化」として正社員の数が減少していく。正社員の代わりとして再雇用されるのは、ほとんど非正規雇用の職員だったのだ。
グローバル市場で生き残るために「選択と集中」を政府自らが進めた結果、サムスンのような巨大な企業は強くなって世界で生き残ったが、大企業に入ることのできない大多数の二十代は、待遇の悪い中小企業か、非正規労働者になるしかなかった。新自由主義のもと、経済は年4~5%成長と回復したが、大企業とは無縁の9割以上の若者は見捨てられた形となったのだ。


例え大企業に入っても、飽くなき競争が待っています。
IMF危機で終身雇用が崩れて、業績と雇用が連動する競争意識が植え付けられました。
部長に昇進しても、役員になれない者は「名誉退職」と言う名の解雇にあいました。
IMF危機から回復した今でも、業績が下位になれば「解雇の対象」というプレッシャーの中で働いているのです。

一生涯競争にさらされ精神的に追い立てられ、格差が拡がり敗者復活が許されない閉塞した社会となった結果、2010年5月にOECDが発表した統計では10万人当りの自殺率は21.5人と韓国がトップ(日本は19.1人の3位)となっています。


少子化で高齢化社会が進み、非正規労働者が増加し格差が拡がり、疲弊した若者や中年が社会の至る所にいる、という社会の歪みは、社会保障費の増加、内需の減少、生産労働力の低下といった経済活動にも影響を及ぼしてくるでしょう。
躍進の影では、ある面では日本よりひどい状況となっているのです。


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コメント 2

gkrsnama

遅れてきた新自由主義改革は、小泉改革に前後してドイツ・スウェーデンでもおこなわれました。韓国でも同様のことがあったのですね。

いいのか悪いのかは別として小泉改革はなんだか不十分な結果になりましたが、他の三者は大きな成功をおさめたようです。ところがドイツやスウェーデンでは国民は幸福になり、韓国では不幸になったのはなぜでしょうね。

ひとつには前者は経済の地盤沈下に見舞われていたとはいえなお世界的な評価を確立していた産業を持っていたこと、韓国は破滅に直面しそれを回避するために外部の支援を受けながら強引に改革を進める必要があったからでしょうか。もう一つは前者は社民党が行った新自由主義政策であり、国民の痛みにも十分な対策をとっていたからではないでしょうか。
by gkrsnama (2012-12-12 02:59) 

mino

おっしゃる通り基盤の違いかもしれません。
ドイツやスウェーデンは長年の企業努力による経済基盤があった一方、韓国はIMF危機によって一度どん底まで叩き落されています。
そこら辺りから新自由主義を導入して、一部の超勝者を作りあげる戦略は間違っていないような気もしますが、落伍者を救う社会保障にまで手を回す余裕がなかった、というのが原因との一つとして考えられます。
日本でも小さな政府を志向する動きが出てきていますが、韓国の影の部分も勉強して格差やセーフティネットへのケアを行わないといけないと思います。
by mino (2012-12-15 23:04) 

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