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ノモンハン事件からの教訓 『昭和史』半藤一利著 [よのなか]

半藤一利さんの『昭和史』を読んで、「成功は復讐する」という言葉をつくづく思い出しました。

『昭和史』で取り上げられているノモンハン事件は、最近「超」入門本が出て再び話題になっている『失敗の本質』でも分析対象とされています。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

  • 作者: 戸部 良一
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1991/08
  • メディア: 文庫


『失敗の本質』では、逆説的ですが、「日本軍は環境に適応しすぎて失敗した」のではないか、という提議を行っています。

日本は明治維新後に「坂の上の雲」を追いかけ、徹底的なリアリズムで日清戦争、日露戦争で大国を破り、先進国の仲間入りを果たしますが、その成果に陸軍・海軍は固執し過ぎたというのです。

人は失敗した原因を探して、同じ過ちを繰り返さないように対処します。
しかし、成功した場合は、成功に至った過程を評価し、より強化しようとします。

2つの戦争で最終的には成功した、陸軍は白兵戦による銃剣突撃主義、海軍は艦隊決戦主義が強力な戦略原型(パラダイム)として存在しました。

日本は第一次大戦という近代戦を組織全体がまともに体験しなかった為に、自己革新する機会を失い、そのパラダイムを打ち捨てることなく、むしろ強化しました。

成功は復讐したのです。


***

しかし、そんな日本にも転換するチャンスはありました。
火力で圧倒的に負けたノモンハン事件の敗北です。
実は当時もその反省を生かすべく、委員会まで設置されて敗因を研究していました。

事件の翌昭和15年1月、陸軍中央、つまり参謀本部で、ノモンハン事件から何を教訓とするかについて研究会というか、大々的な反省会が行われました。「ノモンハン事件研究委員会」というものが設置され、専門家である参謀や、事件には直接関係のない参謀たちも携わって、いろいろ検討したのです。作戦計画や戦闘そのものの調査研究はもとより、統制・動員・資材・教育訓練・防衛および通信・ソ連軍情報など多岐にわたるものでした。たとえばその報告書には、
「・・・火力価値の認識いまだ十分ならざるに基因してわが準備を怠り、国民性の性急なると相まち誤りたる訓練による遮二無二の突進に慣れ、ために組織ある火網により甚大なる損害を招くにいたるべきは、深憂に堪えざるところなり。」

と、今の私達が見ても非常に冷静かつ的確な分析をしているのです。

しかし、報告はこのあとに、「優勢なる赤軍の火力に対し勝を占める要道は一に急襲戦法にあり」と、せっかくの正しい判断をぼかしてしまうのです。

その結果生まれた結論は、
「ノモンハン事件の最大の教訓は、国軍伝統の精神威力をますます拡充するとともに、低水準にある火力戦能力を速やかに向上せしむるにあり」。

このことを半藤氏が旧陸軍にいた人に話を聞くと、『火力戦能力を速やかに向上せしむるにあり』という一行を書くことも当時では大変なことで、これを書いた参謀の人たちは飛ばされるのを覚悟でよくここまで書いた、となるようです。

***

成功したばかりにイノベーションを起こすことができずに、周りの環境から取り残され、いつの間にか負け組になってしまう。
過去の日本軍だけではなく、現在でも散見されるこの状況。
冷静に分析できたとしても、変革を起こすことは難しいのです。


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