『魂の経営』 古森 重隆 [本]
★★★★
2011年にチャプター11(米国連邦破産法11条) を申請したアメリカのコダック。
2007年に最高益を計上した日本の富士フィルム。
かつて写真フィルム事業を主力とした2社の業績が非常に対照的で、富士フィルムが取った経営戦略に関心がある人は多いはず。
本書は2000年に富士フィルムの社長に就任した著者が、デジタルカメラの出現によって、主業の写真フィルム市場が年率2-30%もの勢いで消滅する会社の危機を、いかに乗り切ったかを語ったもの。
戦略はシンプルで、富士フィルムが持っていた強みである高い技術を棚卸し、既存市場、新規市場に当てはめて「勝ち続けられる事業」に経営資源を投資。
一般消費者向けには、富士フィルムが始めた化粧品ブランド「アスタリフト」が認知されていますが、一番大きかったのは液晶テレビに使われる偏光板保護フィルム向けの投資を、テレビの趨勢がプラズマテレビか液晶テレビになるか分からなかったタイミングで、大きく踏み切ったことでしょう。
コダックと富士フィルムが決定的に異なっていたのは、両者ともデジタル化の流れを分かっていながら、前者はあくまでも短期の利益に目を奪われて将来的な投資ができなかった一方、後者はデジタル化に向き合い、デジタル製品の開発にも積極的に取り組んでいたことです。
その証拠に、苦しい時期にも、年間2000億円の研究開発費を捻出し続けました。
戦略や経営理念を含蓄のある言葉でシンプルに語る本書は、ヤマト運輸の小倉昌男氏の名著『経営学』に通じるものがあります。
個人的には、以下の言葉が心に残りました。
企業の存亡の危機に際して、改革に反対する社員はいなかったし、もしいたとしても、やらなければいけないことを躊躇する要因にはならない。そんなことを気にするようでは、リーダーは務まらない。
ビジネスもある意味、勝つか負けるかの戦争であるが、どこの世界に、個々の作成遂行にあたって、兵隊一人ひとりの考えを慮って戦う指揮官がいるのか。また、敵軍が迫っている中、指揮官の命令に反発する兵士がどこにいるのか。
責任を持った判断をする為に、リーダーはしっかり流れを「読み」、未来を予測しなくてなりません。
その為に日頃から、「読む」訓練を続ける必要がある、と説く本書は、リーダーにも必見の書です。
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