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『迷いながら、強くなる』 羽生 善治 [本]


迷いながら、強くなる (単行本)

迷いながら、強くなる (単行本)

  • 作者: 羽生 善治
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2013/11/01
  • メディア: 単行本


★★★★

前回、物事の本質を語る上手な人のパターンとして、二通りあると述べましたが、素人にも分かる平易な言葉で本質を端的に伝えることのできる人として真っ先に思う浮かぶのは、棋士の羽生善治さん。

過去の著作でも、将棋界に留まらない人生の格言をいくつも語られていますが、本書もすごい!
特に前半部分は、松下幸之助さんの『道をひらく』並みの、1ページ1ページに含蓄のある言葉のオンパレードです。

以下、いくつか珠玉の言葉を紹介します。

一見、意味のなさそうなことでも、マイナスにしか思えないことでも、実は自分に重要な影響がある―これは、数多くの対局が教えてくれた教訓です。
今、何か問題に直面していたとして、それが解決できるかもしれないし、残念ながら解決できないかもしれません。
しかし、それを解決しようと頭を絞った経験や過程というのは、後々になっても自分を支えてくれ、やがて財産になるものだと信じています。


何かを上達したいと思った時、人は懸命に努力をするものですが、できるものとできないものがあります。
持って生まれた先天的な才能でしょうか?もちろん、それも関係しているでしょうが、もっと大きな影響を与えているのは、個々の人が持っている”モノサシ”です。ここでいう”モノサシ”とは、自分が何か習得するまでの基準タイムのこと。
人は生まれてから育っていく時に、たくさんの種類の”モノサシ“”を身につけているのです。
たとえば、歩けるようになるまでは一年、言葉がしゃべれるようになるのは二年、自転車に乗れるようになるまでは一ヶ月、裁縫がきちんとできるまでは二週間など、長いものから短いものまでたくさんあります。
そして、それを基準にして現在取り組んでいることに対して自己評価をしているのです。ホットケーキは三回で上手に焼けるとしたら、もう少し難しそうなマドレーヌは六、七回はかかるかな、などと考えているわけです。
そのような経験を重ねる中で長いモノサシをつくることは、とても有効になります。
なぜなら、長いモノサシを持っていれば、少なくともその期間は不安になることが少ないからです。


鉱脈があるかないかわからないケースはたくさんあります。
そして、それでも方針を決めなければならない場面もたくさんあります。
これは大きな”賭け”なのです。
大きく賭ければ大きく勝つかもしれないし、大きく負けるかもしれない。
小さく賭ければ小さくしか勝てないし、負けても損害は小さい。
そんな時には大部分の人は大きく賭けないものです。
当然のことですが、ほんの一部の人が大きく賭けてその中の一部の人が勝ちます。
小さく賭けた場合は小さく勝つ人もいますが、小さく負ける人のほうが多いはずです。
ですので、大勢の小さく負けた人のものが大きく賭けた一部の人への利益となっていると思います。


一般的に若い時にはチャンスに強く、ピンチに弱い、年齢を重ねるとチャンスに弱く、ピンチに強くなる傾向があるのではないでしょうか。
チャンスというのは長続きしません。その瞬間を大胆に勇敢に掴まえないとすぐに逃げてしまいます。 ”石橋を叩いて渡る”では、とてもではありませんが間に合わないのです。
若くて勢いのある時のほうがチャンスを掴まえやすいわけです。
一方でピンチの場合を迎えた時は、経験が少ないこともあって対処に困るケースもあります。チャンスを掴む時のように大胆な選択をしてしまうと、かえって傷を深めて収拾がつかなくなります。

そして、年齢を重ねてくると、ピンチの場面を迎えた時に経験に基づいてどんな状況になっているのか、そこからどんな手段で抜け出せるのかを客観的に見るようになります。
しかし、現状を客観的に見ている間にチャンスが通り過ぎることも多くなるわけです。
また、経験の記憶の性質として、チャンスの時よりもピンチの時のほうが深く刻み込まれます。どうしてもピンチを回避するほうを優先するので、チャンスが掴みにくくなる面もあるでしょう。


目隠し将棋と言って盤や駒を使わず頭の中だけで対局する時があります。
八十一マスの盤面を一度に正確に記憶しておくのは簡単なことではなく、一工夫が必要となります。
そこで、私は盤面を四分割して記憶をするようにしています。
四分割した二十マスのエリアの配置ならば、ズレて混乱することもなく記憶ができるわけです。


うまくタイミングを掴むことを″時流に乗る″と言います。
その時点で外的な環境を把握し、積極的に動いて波に乗るかのように時宜をはかるのです。その時には大胆で果敢な行動が必要となります。
今、タイミングが来ているかなと思っても、少しでも様子を見ていると時流に乗り遅れてしまうわけです。
それだけ時流の波は大きく、流れの早いものだとも思っています。
仮に乗れたとしても降りる時も必ず来ます。体勢を維持できずバランスを失ってしまうケースもありますし、波そのものが終わってしまう時もあります。
波に乗るのは難しいですが、波から降りるのも難しいものです。
逆に流れを失う時は、どんな時でしょうか。
それは、安心してしまったり、過信してしまったり、満足してしまう時などです。流れを大切にして自分でせき止めてしまえば徐々に勢いは弱まります。


私がにわか将棋ファンで、羽生さんの言動を尊敬の眼差しで見てしまうということを差し引いても、含蓄のある言葉の連続ではないかと思います。
やっぱりその道の達人は、人生の達人でもあります。
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