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『破綻する中国、繁栄する日本』 長谷川 慶太郎 [本]


破綻する中国、繁栄する日本

破綻する中国、繁栄する日本

  • 作者: 長谷川 慶太郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2014/01/31
  • メディア: 単行本


★★★

2009年に日本のGDPを抜いて、アメリカに次ぎ、世界ナンバー2の大国となった中国。
一人当たりGDPは日本の約10分の1ですが、人口が日本の10倍以上なので、国としてのGDPは日本より上、という訳です。

しかし、最近の中国の傍若無人ぶりには目を見張るものがあります。
尖閣諸島領有問題を始めとする日本への好戦的態度だけでなく、東南アジア各国に対する高圧的な態度で、ASEAN諸国全部を敵に回しています。

そんな中国の強権振りは、アメリカをも警戒させ、中国対世界の様相を呈してきています。
強い敵が現れると、「敵の敵は味方」というドラゴンボールみたくなってきました。

そんな自他共に認める大国となった中国ですが、内実はボロボロなんですよ、というのがこの本。
タイトル後半の、繁栄する日本、というのは取って付けた感がありますが、エコノミストの長谷川慶太郎さんが中国の軍事問題を中心に語る内容は刺激的です。

中国の空母は訓練されたパイロットが圧倒的に不足している、ガスダービンで動くので部品の摩耗が激しく連続航行ができず、カタパルトもない。
実際は原子力潜水艦も存在していない、戦車は鋼板が薄くアメリカ軍と戦えば全滅する、戦闘機も能力の差で日米が圧勝、とこんな感じです。

中国の内実については、始めの1ページに要約されています。
今、中国では激しい共産党と人民解放軍の間で権力闘争が繰り広げられています。そして、中国共産党にとって一番、厄介な存在だった人民解放軍の1つ瀋陽軍区が中国国家主席の周近平のコントロール下に置かれることになったのです。
これまで瀋陽軍区は共産党にとって「頭の痛い」存在でした。勝手な行動を取り、そのたびに周近平は窮地に立たされてきたのです。それまで、北朝鮮は国境を接している瀋陽軍区のコントロール下に置かれていました。
ですから、北朝鮮が実施してきた核開発、核実験やミサイル発射は瀋陽軍区が金正恩に命令して実行させたのです。そのたびに中国は北朝鮮の勝手な行動を許しているとして、国際社会から激しい批判にさらされてきました。そこで習近平はこうした事態から脱却するために、瀋陽軍区の幹部が経営しているシャドーバンキング救済を武器にして、瀋陽軍区の支配に乗り出したのです。それが成功しました。シャドーバンキングは大量の「理財商品」の償還ができずに、経営的に窮地に陥り、中央銀行である人民銀行から融資を受けなければ倒産する事態になったのです。

どこまで本当なのかよく分かりませんが、中国に対して日本が感じる脅威は、この格言に凝縮されているかもしれません。
「不安は直視すれば消滅する」。





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『わたし、解体はじめました -狩猟女子の暮らしづくり-』 畠山千春 [本]


わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり─

わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり─

  • 作者: 畠山千春
  • 出版社/メーカー: 木楽舎
  • 発売日: 2014/03/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


★★★

ショットガン一本で熊と至近距離で対峙する『熊撃ち』を読んで、一端の猟師気取りだった僕は、「平凡な女子」が猟師を始めたというこの本を手に取り、「どうせ解体を目の当たりにして、お肉が食べられなくなったとかでしょ」とタカをくくっていました。

東日本大震災をきっかけとして、自らの手で生きることの重要性を痛感した著者は、ネットで検索した内容を基に、初めて生きた鶏を締めます。
慌てて押さえたけれど、鶏の首から飛ぶ返り血を思いきり浴びてしまいました。力いっぱい暴れる鶏を、「ごめんね、ごめんね」と言いながら、一生懸命押さえる私。
おっかなびっくり鶏を締め、首を落としたあとは、もう鶏肉は食べられないかも、と思うものの、毛をむしりバーナーで産毛を焼く段になって、「ああ、美味しそう」のいう気持ちが生まれてきています。

意外とタフです笑

その後、自ら鶏の解体ワークショップを開催している内に、もっと動物と対等に向き合いたいという思いから、狩猟免許を取ります。
新米猟師の誕生です!

猟師と言っても、銃を持って獣を追いかけるマタギのようなものでなく、イノシシやシカの生態を理解し、罠を仕掛ける罠猟です。

罠にかかったイノシシを気絶させ、解体し、食べる。
ナイフが頸動脈には突き当たると首から血がピューッと噴き出しました。
一発で頸動脈を切ることができ、噴き出す血を見て、心のどこかでほっとしました。首元から血がどんどん流れ出てきます。脈打つ心臓がポンプの代わりになり、血をどんどん体外に出していくのです。
血の温かさでイノシシの首元の切り込みからうっすら湯気が出ています。雨よけに着ていたポンチョが赤く染まりました。
頸動脈を切ったことを確かめると、さっと後ろに引いて血が出切ってしまうのを待ちます。しばらくバタバタ暴れていたイノシシも、出血につれ動きが弱まってきます。
イノシシが倒れ、最後は足をピーンと突っ張り、動かなくなりました。

等身大の、現代の猟師を追体験することができます。





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『"リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』 橋山 禮治郎 [本]


リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」 (集英社新書)

リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」 (集英社新書)

  • 作者: 橋山 禮治郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: 新書


★★★

先日のゴールデンウィークは、東京から実家のある関西まで新幹線で帰りました。

新幹線を使っていつも思うのは、「たっかいなー」ということ。
帰ったのが平日の昼間だったので比較的空いていましたが、出張などで使う平日の朝や夜などはいつも一杯です。
つまり、JR東海はボロ儲けなのです。

実際、JR東海が運営する東海道新幹線の営業利益率は50%弱と群を抜いています。
そのJR東海は2007年4月に、そのボロ儲けの利益を、国鉄から分割された赤字の他のJR会社を助けるのではなく、リニア新幹線に注ぎ込むことを発表しました。

リニア新幹線と聞けば、電導の磁気で浮いて時速500km、東京・大阪間を1時間で結ぶ次世代「夢の超特急」という知識ぐらいしかありませんでしたので、この本を読んでみることにしました。
こうしたプロジェクトに対する本は、著者のスタンスを早めに理解することが早く読むポイントになります。

そのプロジェクトに好意的か、否定的か。
利害関係があるのか、ないのか。

表紙のそでにはこう書かれています。
最高時速500キロ超で、東京・大阪間を1時間で結ぶ「夢の超特急」リニア新幹線。しかし、その実像は、ほとんど知られていない。全区間の7割が地下走行で車窓は真っ暗。遠隔操作で運転手不在。乗り換えは不便で安全対策も環境対策も穴だらけ。中間駅建設は地方負担。新幹線の3~5倍の電力を消費。そして2045年の全線開通時には人口が24パーセント減少するにもかかわらず「移動需要は今より15パーセント増える」という不可解な試算・・・。

はい、この人、リニア新幹線嫌い~。
実際、否定的な内容が続きます。

確かに車窓のほとんどが真っ暗というのは知りませんでしたが、東京・大阪間を新幹線とほぼ変わらない値段で、1時間で行けるのなら僕はそちらを使いますね。
この前のGWも、本を読んでいたらあっという間の2時間半も、小さい子供を連れていると途中でグズッたりして、かなり長く感じました。

否定的な意見は課題を浮き彫りにするのには有効ですが、偏り過ぎているのも宜しくないですね。
かといって、結論ありきの甘々のプロジェクトも読んでて退屈だし。

賛成・反対の両端の意見と、知見の深い立場が中間の人の意見、この三者の意見を聞くのが物事の本質を理解する手っ取り早い方法です。





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『ルポ 終わらない戦争―イラク戦争後の中東』 別府 正一郎 [本]


ルポ 終わらない戦争――イラク戦争後の中東

ルポ 終わらない戦争――イラク戦争後の中東

  • 作者: 別府 正一郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


★★★

国連安保理の決議による承認を得ないまま、2003年にアメリカの武力侵攻によって開戦したイラク戦争は、開戦の大義である大量破壊兵器を見つけられなかったという点でアメリカにとって失敗でした。
しかし、その後フセインという重石を失ったイラクで、宗教派閥間の対立からイラク国民同士の内戦に、そして中東全体の混乱につながる「パンドラの箱」を開けてしまったという点で、国際的に大失敗だったのです。

イラク戦争による民間人の数を記録し続けてきたイギリスの民間団体「イラク・ボディー・アカウント」が発表したところによると、開戦後の10年で犠牲になった民間人はおよそ12万人。アメリカ軍やイラクの治安組織のメンバーも含めると、あわせて17万人が死亡した。
混乱はイラク国内にとどまらなかった。中東の心臓部に位置するイラクは、サウジアラビアやイラン、それにシリアやトルコなど六つの国と国境を接する。イラクの混乱は国境を越え、隣国や周辺国、さらには、アフリカにも及んだ。

イラク戦争が開けてしまった対立と分断の「パンドラの箱」は、閉じられることがないまま、いまも中東全域に衝撃波が広がり続けています。

日本は、遠い中東の、馴染みの薄いイスラム教徒の国の問題だと無関心で良い訳ではありません。
ペルシャ湾岸の産油国から、日本はほとんどの原油を輸入しており、ペルシャ湾は日本が輸入する原油のおよそ8割のタンカーが通過する、日本のエネルギー安全保障のかなめでもあり、生命線だからです。
これまで大筋で利害を共にしていたアメリカが、自国のシェール革命により中東への関心が薄まれば、今後中東の情勢は更に混沌とすることも予想されます。

そんな中でも、イラクの石油をめぐる進出競争は激しさを増しています。
イラクでは1980年のイラン・イラク戦争からの相次ぐ戦争の為に、手付かずの油田が多く、「最後のフロンティア」とも呼ばれ、日本の大手商社などの関心も高いようです。


本書はNHKの特集を中心とした構成になっている為、時系列や地理軸がバラバラで中東情勢に疎い人には分かりにくいです。
ただ、紛争下の緊張状態で取材してきた筆者による、生々しい現場を感じることができます。





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『稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方』 大前 研一 [本]


稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方

稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方

  • 作者: 大前 研一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/09/05
  • メディア: 単行本


★★★

大前研一さんの本。
タイトルは『稼ぐ力』。

それだけで、これまで大前さんの本を読んできた人には、本の内容の7割は推察できそうですが、実際7割は想定通りです笑。
でも、大前さんが凄いのは随所に本質を突いた見方を示してくれるので、やっぱり外すことはできません。
今でも、世界で何が起きているのか分析する為に、1日500本のニュースを読んでいるそうです。

この本は『週刊ポスト』の連載を中心に構成されているので、話題があちこちに飛びますが、マッキンゼーで大手企業のコンサルティングを担当してきた人とは思えない程、大手企業や日本政府に手厳しい発言が相次ぎます。

日本企業は政府に対して「面従腹背」で、経団連のトップに名を連ねているような企業は、安倍首相の賃上げ要請に唯々諾々と従う一方で海外に巨大工場を建設し、国内事業が厳しくなっても自分たちだけは生き延びていけるような体制を着々と整備している。

GEやIBMやネスレなど欧米のグローバル企業は、そういう給与体系の問題を適正化するために何十年もかけてさんざん試行錯誤した挙げ句、いろいろな調整弁の付いた今日の複雑な仕組みを作り上げてきたのである。それを実際の適用範囲は一部の上位職層に限るとするものの、あまりにシンプルに「世界第一」を前面に打ち出す説明をした柳井さんは、世界企業のこの30年くらいの血と汗の物語に疎かった、と言わざるを得ない。

本社部門が、役所と似ているのは「仕事量は与えられた時間を使い切るまで膨張する」、言い換えれば「人の数だけ仕事が増える」というパーキンソンの第一法則が当てはまることだ。
私が企業の関節業務を簡素化するコンサルティング業務を請け負った時は本社部門の人員の25~40%削減を目指し、まずはフォーマットの統一からスタートする。そうやって重複する間接業務をどんどん整理していくと、人員を25~40%削減しても、業務には何の支障もないのである。

グローバル企業を目指すなら、社長から見た時のお客さんまでの距離が、どの国でも同じでなければならない。国内と海外を区別しないで、お客さんがどこにいるか、を組織に反映しなくてはならない。世界に日本のような大市場がいくつあるか、という発想で、地域別ではなく国別対応にして、それぞれの国に国内同様の経営資源(ヒト、カネ、商品)を注ぐべきなのだ。

電子書籍リーダー「キンドル」を販売しているアマゾンは、いつの間にかキンドルのアプリをアップストアからiPhone、iPad、iPod touchに無料でダウンロードできるようにした。アマゾンは、自分は小売屋に徹してハードはアップルに寄生する道を選び、キンドルをiPadなどのアイコンの一つにしてしまったのである。ユーザーはiPad上の無料キンドルでアマゾンのキンドルストアから電子書籍を購読しているわけで、これだとアップルにはマージンが全く入らない。

マックはプライシングが歪んでいる。ハンバーガー単品の値段は100~490円でそれ相応だが、そこに原価が安いコーラなどのドリンクとフライドポテトを付けた「バリューセット」になると、途端に480~790円に跳ね上がる。実は「バリュー(価値ある)セット」とは、マックにとっての「バリュー」でもあるのだ。

マクド(関西出身者はこう呼ぶ笑)程、CMと現物の商品のギャップが大きい商品はないですよね。
CMではジューシーで盛り付けも綺麗でおいしそうだけど、実物はパサパサで盛り付けもおてなりの不味いこと。。。





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『勝負心』 渡辺 明 [本]


勝負心 (文春新書 950)

勝負心 (文春新書 950)

  • 作者: 渡辺 明
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/11/20
  • メディア: 新書


★★★

たまたま、なんだと思いますが、将棋界を代表する人の著作が連続して出ていたので、続けて読みました。
物事を達観し棋士同士の間でも別格視されている羽生さん、豪胆のように見えて意外と繊細な森内さん、そして論理的で現代っ子の渡辺さん。

1984年生まれの渡辺さんは、周りが殆ど先輩棋士の中お菓子を食べるタイミングも失礼にならないように気を遣っている一方で、論理的でないことには先輩の言であろうと一刀両断。
私は以前から、米長哲学には素直にうなずけなかった。なぜなら、あまりにも非論理的な内容だからである。
確かに、何となく格好良くは聞こえる。しかし、理論に基づいた考え方を好む私には、非論理的な表現に思えてならないのだ。

大事なのは、仮に偉大な先輩の言動や考え方であっても、自分が納得できなければ従う必要はない、ということだ。もし受け入れるなら、十分に納得したうえでそうすべきだ。そうでなければ、その考えや言葉も自分自身のものとはならないからである。

その上、緊張感漂う対局者との移動中の乗り物の中や、タイトル戦前日の会場でも趣味の競馬の話をしているのですから、何と扱いにくい現代っ子でしょう笑
実力も超一級なのですから、先輩棋士としてはやり辛い。。。

26歳の年齢制限ギリギリでプロになった岡崎棋士のことを尊敬するようなことを書いた直後に、「将棋の世界は20歳で将来が見えてしまう厳しい世界」とバッサリ。
自身は史上4人目の中学生プロ棋士となり、20歳で棋界の最高位と言われる「竜王」位を獲得し、そこから9連覇しています。

更に、勝負の世界では誰もが気にする、ツキや「調子」など気にしないというデジタル世代。
対局に臨むにあたって、ゲンを担ぐかわりに、次のことを心がけている。
まずは事前の研究による入念な準備。
次に、対局日に向けての体調管理。
最後に、対局場まで無事に辿り着くこと。
この3つが重要と考える。対局が始まってしまえば、勝つも負けるも、あとはすべて実力である。

一方で、準備の大切さを繰り返し述べています。
これはどんな仕事でも通用することでしょう。

どんなにメンタルが強い人でも、平常心を欠いては正しい判断ができなくなってしまう。そういう状況に陥らないためにも、「想定外」を想定しておくことが重要なのである。

電王戦でのプロ棋士達の完敗が記憶に新しいコンピュータ将棋も、敵ではなく共存可能な存在と言い切ります。
こうした次世代が新しい世の中を作っていくのでしょう(私と歳3つしか変わらないけど・・・^^;)。
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『迷いながら、強くなる』 羽生 善治 [本]


迷いながら、強くなる (単行本)

迷いながら、強くなる (単行本)

  • 作者: 羽生 善治
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2013/11/01
  • メディア: 単行本


★★★★

前回、物事の本質を語る上手な人のパターンとして、二通りあると述べましたが、素人にも分かる平易な言葉で本質を端的に伝えることのできる人として真っ先に思う浮かぶのは、棋士の羽生善治さん。

過去の著作でも、将棋界に留まらない人生の格言をいくつも語られていますが、本書もすごい!
特に前半部分は、松下幸之助さんの『道をひらく』並みの、1ページ1ページに含蓄のある言葉のオンパレードです。

以下、いくつか珠玉の言葉を紹介します。

一見、意味のなさそうなことでも、マイナスにしか思えないことでも、実は自分に重要な影響がある―これは、数多くの対局が教えてくれた教訓です。
今、何か問題に直面していたとして、それが解決できるかもしれないし、残念ながら解決できないかもしれません。
しかし、それを解決しようと頭を絞った経験や過程というのは、後々になっても自分を支えてくれ、やがて財産になるものだと信じています。


何かを上達したいと思った時、人は懸命に努力をするものですが、できるものとできないものがあります。
持って生まれた先天的な才能でしょうか?もちろん、それも関係しているでしょうが、もっと大きな影響を与えているのは、個々の人が持っている”モノサシ”です。ここでいう”モノサシ”とは、自分が何か習得するまでの基準タイムのこと。
人は生まれてから育っていく時に、たくさんの種類の”モノサシ“”を身につけているのです。
たとえば、歩けるようになるまでは一年、言葉がしゃべれるようになるのは二年、自転車に乗れるようになるまでは一ヶ月、裁縫がきちんとできるまでは二週間など、長いものから短いものまでたくさんあります。
そして、それを基準にして現在取り組んでいることに対して自己評価をしているのです。ホットケーキは三回で上手に焼けるとしたら、もう少し難しそうなマドレーヌは六、七回はかかるかな、などと考えているわけです。
そのような経験を重ねる中で長いモノサシをつくることは、とても有効になります。
なぜなら、長いモノサシを持っていれば、少なくともその期間は不安になることが少ないからです。


鉱脈があるかないかわからないケースはたくさんあります。
そして、それでも方針を決めなければならない場面もたくさんあります。
これは大きな”賭け”なのです。
大きく賭ければ大きく勝つかもしれないし、大きく負けるかもしれない。
小さく賭ければ小さくしか勝てないし、負けても損害は小さい。
そんな時には大部分の人は大きく賭けないものです。
当然のことですが、ほんの一部の人が大きく賭けてその中の一部の人が勝ちます。
小さく賭けた場合は小さく勝つ人もいますが、小さく負ける人のほうが多いはずです。
ですので、大勢の小さく負けた人のものが大きく賭けた一部の人への利益となっていると思います。


一般的に若い時にはチャンスに強く、ピンチに弱い、年齢を重ねるとチャンスに弱く、ピンチに強くなる傾向があるのではないでしょうか。
チャンスというのは長続きしません。その瞬間を大胆に勇敢に掴まえないとすぐに逃げてしまいます。 ”石橋を叩いて渡る”では、とてもではありませんが間に合わないのです。
若くて勢いのある時のほうがチャンスを掴まえやすいわけです。
一方でピンチの場合を迎えた時は、経験が少ないこともあって対処に困るケースもあります。チャンスを掴む時のように大胆な選択をしてしまうと、かえって傷を深めて収拾がつかなくなります。

そして、年齢を重ねてくると、ピンチの場面を迎えた時に経験に基づいてどんな状況になっているのか、そこからどんな手段で抜け出せるのかを客観的に見るようになります。
しかし、現状を客観的に見ている間にチャンスが通り過ぎることも多くなるわけです。
また、経験の記憶の性質として、チャンスの時よりもピンチの時のほうが深く刻み込まれます。どうしてもピンチを回避するほうを優先するので、チャンスが掴みにくくなる面もあるでしょう。


目隠し将棋と言って盤や駒を使わず頭の中だけで対局する時があります。
八十一マスの盤面を一度に正確に記憶しておくのは簡単なことではなく、一工夫が必要となります。
そこで、私は盤面を四分割して記憶をするようにしています。
四分割した二十マスのエリアの配置ならば、ズレて混乱することもなく記憶ができるわけです。


うまくタイミングを掴むことを″時流に乗る″と言います。
その時点で外的な環境を把握し、積極的に動いて波に乗るかのように時宜をはかるのです。その時には大胆で果敢な行動が必要となります。
今、タイミングが来ているかなと思っても、少しでも様子を見ていると時流に乗り遅れてしまうわけです。
それだけ時流の波は大きく、流れの早いものだとも思っています。
仮に乗れたとしても降りる時も必ず来ます。体勢を維持できずバランスを失ってしまうケースもありますし、波そのものが終わってしまう時もあります。
波に乗るのは難しいですが、波から降りるのも難しいものです。
逆に流れを失う時は、どんな時でしょうか。
それは、安心してしまったり、過信してしまったり、満足してしまう時などです。流れを大切にして自分でせき止めてしまえば徐々に勢いは弱まります。


私がにわか将棋ファンで、羽生さんの言動を尊敬の眼差しで見てしまうということを差し引いても、含蓄のある言葉の連続ではないかと思います。
やっぱりその道の達人は、人生の達人でもあります。
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『不格好経営―チームDeNAの挑戦』 南場 智子 [本]


不格好経営―チームDeNAの挑戦

不格好経営―チームDeNAの挑戦

  • 作者: 南場 智子
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2013/06/11
  • メディア: 単行本


★★★★

その道を極めた人の話し方には、二つのパターンがあると常々思っています。

一つは、素人にも分かる平易な言葉で本質を端的に伝えるパターン。
もう一つは、とっても能力があって偉いのに、全く偉ぶらずユーモアを交えながら、本質を語るパターン。

この本の南場 智子さんは完全に後者。
自虐ネタを織り交ぜながら、DeNAの急成長の物語を面白おかしく語ります。

例えば、アメリカのネットオークション会社の巨人、ebayとの買収交渉のシーン。
売れ、と言う。やだ、と答える。

難しい買収交渉も、一言で言えば、結局そういうこと。

他には上場前のエピソード。
東証との社長面接前のリスクを減らそうと、外出しまいと決めた週末に、洗濯物を抱えて転倒し、額をローテーブルの角に打って、のたうち回ったこと。

そういうユーモアを交えた話し手ほど、最後に真面目に締めて、そのギャップに聞き手はカッキーンとヤられることが多いのだけど、本書もそう。
DeNAと聞いて、「なんだ、出会い系のネット企業か」「どうせパッと出のゲームの会社だろ」とタカをくくっていたら、最後はその熱い想いにやられてしまうのでご注意を。

世界ナンバーワンというシンプルな目標に、斜に構えずにこだわり、日本初のチームとしててっぺんに挑戦しよう。そこに集中することがチームDeNAの使命だと思っている。


マッキンゼーという、頭の良さだけでは1,2を争うブランド企業から起業し、売上2000億、営業利益率35%を超える東証1部上場企業を創り上げた女社長と聞けば、誰もが心の敷居を高くするもの。
そこを、あえて自分の弱みや恥をさらけ出しても、会社のファンを作ろうという試みは見事に成功しています。
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『"破綻―バイオ企業・林原の真実』 林原 靖 [本]


破綻──バイオ企業・林原の真実

破綻──バイオ企業・林原の真実

  • 作者: 林原 靖
  • 出版社/メーカー: ワック
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 単行本


★★★

経営に失敗した本を好んで読みます。
成功は結果論であり、他人からしてあまり参考にならない場合がありますが、失敗した場合には失敗する必然性があり参考になると思うからです。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
ノムさんが松浦静山の剣術書『剣談』から流用した名言。


「トレハロース」「インターフェロン」 の量産化に成功して市場を独占し、岡山の雄として讃えられていた林原の破綻について書いた本。
『カンブリア宮殿』で取り上げられ、独特の経営手法が記憶に残る中での破綻だったので、個人的にも印象が強いです。

全体的には、なんともお粗末な話。
林原側もお粗末、銀行側もお粗末。

林原単体では年間70億程の営業利益を出しながら、製薬会社、ホテル、資産管理会社を始めとする関係会社やメソナ活動への資金流出。
研究費や岡山駅前の不動産購入、株式投資に資金を使い過ぎてグループ売上600億に対して1300億の借入という借入過多、それに対しての過小資本。
そして金融機関が最も嫌う、粉飾決算による情報の不透明性。

一方、銀行側もそんな田舎大名にお目付役を送れず、決算の不正に過敏に反応し過ぎて事業の本体は利益計上体質にありながら倒産に追い込む。
ADR(裁判外紛争解決手続)をまとめきれず、弁護士の独断で第一回全行ミーティングの最中に会社更生法を申請。
弁済率は93%と本当に倒産の必要性があったのか疑問に残る所。

林原の破綻については、当時専務として会社を経営していた一族の林原靖が、自らを擁護しながら書いたこの本しか知らないので、真実や思惑は違った所にあるのかもしれません。
しかし、負けに不思議の負けなし。

どうもお粗末な点があったことは否めません。

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『"殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』 清水 潔 [本]


殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件

殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件

  • 作者: 清水 潔
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/12/18
  • メディア: 単行本


★★★

殺人犯はそこにいる。
読み進めていくと、正しく殺人犯が自分の背後にいるような恐怖を感じます。

栃木と群馬の県境で起きた、連続少女殺害事件。
3件目におきた「足利事件」で菅谷利和さんが逮捕され、事件は結末を迎えたかに思えましたが、その後も同地域で2件の少女殺害事件が発生。

不審に思った日本テレビ記者であった著者が調査を開始し、菅谷さんが冤罪であることが判明し、事件から19年後の2009年に釈放。
調査の過程で真犯人と思われる人物を特定し、警察に逮捕を進言するも、DNA型鑑定など警察の威信に関わる問題があり本格的な再捜査はされず、真犯人は今も野放しになっているのです。

警察から無視され、司法から敵視されても、少女5人が殺され、真犯人が捕まっていないという真実をしぶとく追い求める著者。
その動機の一つがあとがきで明らかになります。

殺人犯はそこにいる。
最後まで読むと、このタイトルには、著者の執念と悔しさが滲みんでいることが分かります。

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